#062 ジャクソン・ヘモポ『Huge Impact.』

シャイな人柄がにじむ遠慮がちな表情と語り口。仮にまったく面識のない人がビデオ通話ツールで会話したなら、相手がラグビーの中でもっとも激しいプレーを要求されるポジションの国際級の選手であるとはとても想像できないだろう。しかしひとたびフィールドに踏み出せば、そのインパクトは特大だ。

ジャクソン・ヘモポ。195cm、112kgの頑健な肉体を武器に、FWのバックファイブを持ち場とする。2018年6月、フランス代表とのテストマッチでニュージーランド代表デビュー。以来、5つのキャップを積み重ね、2019年に25歳の若さでダイナボアーズの一員となった。

ニュージーランド北島のパーマストンノース出身。父は学校の校長先生で、転勤により幼少時はさまざまな土地に暮らした。同国の多くの男子がそうであるように、ラグビーを始めたのは5歳の時。その頃から体格に恵まれていたが、競技に対しては「さほど積極的ではありませんでした」と苦笑する。

「母親が撮ってくれたビデオで振り返ると、マウスガードを舐めながらみんなのプレーを見ているだけ(笑)。あまりいい選手ではなかったと思います」

頭角を表し始めたのは、故郷へ戻り強豪のパーマストンノースボーイズ高に入学してからだ。高校最後の2年間はスーパーラグビーのハリケーンズがフランチャイズとする地区の学生代表に選出され、卒業後の2013年には20歳以下のニュージーランド代表にも名を連ねる。当時のチームメイトには、現オールブラックスのアーディー・サヴェアやスコット・バレット、パトリック・トゥイプロトゥらそうそうたる顔ぶれが並んでいた。

同年、育成選手としてオタゴ代表と契約を結び、ケガ人のカバーでさっそく国内選手権(NPC)出場を果たす。ちなみにその年、NPCでの初トライをアシストしてくれたのは、当時オタゴでプレーしていたSH田中史朗だった。

「高校を卒業して2年目で、最初の試合に行った時、私は穴の空いたスニーカーを履いていました。それを見たフミをはじめとする先輩たちが、試合の後に靴を買ってくれたことを覚えています」

その後、2015年にトレーニングスコッドからハイランダーズへ昇格し、翌シーズンはフル契約選手に。スーパーラグビーでのパフォーマンスを認められ、2018年に念願だったオールブラックス入りの夢を叶えた。同年秋には、東京スタジアムでの日本代表とのテストマッチにも先発フル出場している。

まさにこれからがキャリアのピークというタイミングでの日本行きは、現地でも少なくない驚きをもって報じられた。決断を後押ししたのは、オタゴで所属していた地域クラブの大先輩であり、当時ダイナボアーズを率いていたグレッグ・クーパーヘッドコーチ(HC)からのオファーだった。

「両親は小さい時からずっと私を応援してくれていました。オーブラックスになりたいと思うようになった最大の理由は、両親にあのジャージーを着る姿を見せたかったからです。ただ、オールブラックスで常に試合に出続けるのは非常に難しい。その頃の私は、代表の中でレギュラーの誰かがケガをしたらメンバーに入れるという立ち位置でした。ケガ人が出るかどうかは、自分ではコントロールできません。そんな時にクープス(クーパーHC)から声をかけてもらい、日本でプレーしたほうが自分で人生をコントロールできると思ったのです。2018年の遠征で訪れた時の経験から、日本がとても過ごしやすい国であると知っていたことも大きかった」

加入1年目の2020年は第5節でNECグリーンロケッツからチーム史上初となるトップリーグでの勝利を挙げ、翌2021シーズンもレッドカンファレンスで1勝1分5敗の7位と、歩幅は小さくとも着実な前進を示した。リーグワン初年度の2022年は入替戦でシャイニングアークス東京ベイ浦安に2連勝し、目標だった1シーズンでのディビジョン1昇格を達成する。2020年は全6試合中5試合400分、2021年はプレーオフを含め全9試合中9試合700分、2022年は同14試合中12試合で854分に出場、『鉄人』と呼びたくなるほどの奮闘ぶりでチームを牽引してきた愛称“ジャックス”は、この3年間でのダイナボアーズの成長をこう表現する。

「来たばかりの頃に比べて、チームも個人も年々レベルアップしていることを実感しています。以前はみんな優しすぎて、試合中も遠慮するようなところがありました。いまは誰もが自信を持ってプレーしていることが伝わってくる。相手に合わせず、徹底して勝ちにいこうとする姿も見られるようになってきました」

加入4季目となる今シーズン。ダイナボアーズはディビジョン1の厳しい戦いを勝ち抜くために、昨季ディフェンスコーチとして卓越した手腕を発揮したグレン・ディレーニーをHCに昇格させて新たな一歩を踏み出した。ハイランダーズでも師弟関係にあったジャックスの、ディレーニー評はこうだ。

「人間的にすばらしく、教えるのもうまい。とてもわかりやすく指導してくれるコーチです。日本人選手と話しても、グラックス(ディレーニーHC)が一生懸命日本語でしゃべろうと努力していることにみんな感謝している。そうした熱意が伝わってくる人物であり、それにプラスしていいコーチでもあるわけですから、ダイナボアーズはここからさらに進歩していくはずです」

195cm、112kgのサイズは、テストマッチレベルのLOとしては小さく、軽い。そのためニュージーランドでプレーしていた時は、常に「体重が軽すぎる」という評価に苦しんできた。そんなジャックスを救ったのが、ディレーニーHCのひと言だった。

「体重が何キロかなんて関係ない。体重以上のタフなフィジカルを発揮して、重い選手と同じくらい激しくプレーしてくれればそれでいい、と。そういわれてすごくうれしかったし、絶対に激しいプレーをしなければならないと、大きなモチベーションになりました」

過去3年はケガの影響でプレシーズンに十分なトレーニングを積むことができなかったが、今季はオフが1か月と短かったにもかかわらずコンディションは良好で、「これまでで一番いい状態で、プレシーズンに集中できている」と手応えを口にする。12月17日、秩父宮でのリコーブラックラムズ東京戦で幕を開けるディビジョン1の戦いへの意気込みを聞けば、こんな答えが返ってきた。

「昨シーズンよりレベルはグッと上がりますが、そのステージで戦うためにどこよりも早く始動してトレーニングを重ねてきました。どの相手ともいいゲームができるチームになってきていると感じます。自分たちが一番やらなければならないのは、毎試合すべての力を出し切ってパフォーマンスすること。そして常に改善し、成長し続けることです。そのためにぜひ、多くのファンにスタジアムでサポートしてほしい。私たちは必ずフィールドで全力を出し切って、恩返しをします」

来日して丸3年。相模原で仲間とともにトレーニングに励み、帰宅後近くの海岸で趣味のサーフィンに興じる生活が「本当に楽しい」と微笑む。オフシーズンには日本語の検定試験にもチャレンジするほどこの国での暮らしを愛する好漢は、間近に迫った熱狂の日々に向け、眈々と牙を研いでいる。

Published: 2022.12.07
(取材・文:直江光信)