#013 茅原 権太『さらなる高みへ。』

元気。言葉にするとどこか軽い印象もあるが、ラグビーを戦う上では欠かすことのできない重要な要素のひとつだ。身体から放出される活力がチームに推進力をもたらし、躍動感あふれるプレーで膠着した局面を打開してくれる。そうした選手を、世界中のコーチが常に求めている。

茅原権太は、ダイナボアーズにとってまさにそんな存在だ。

「トライを取るポジションの割にあんまりトライは取ってないですけど(笑)、自分ではいわゆるWTBとは違うタイプだと思っています。思い切りのよさとか、めちゃくちゃ体を張るとか、そういう面が持ち味だと思うので。安藤(栄次)コーチからも毎試合、『お前はとにかく思い切り行け、チームに勢いを与えるプレーをしてこい』と言われています」

入社8年目の2016-2017シーズンは腰の故障の影響で序盤戦を欠場したが、トップイースト第3節のセコム戦で戦列に復帰。4節の秋田ノーザンブレッツ戦以降、5試合で先発出場を果たした。トライこそ1本にとどまったものの、エネルギッシュに動き回って攻守ともよくボールにからみ、チームに貢献。「今までで一番手応えを感じた」という1年を過ごした。

「試合慣れしてきたというか、落ち着いて、チームや試合の状況を見ながらプレーできるようになったと思います。安藤コーチに個人練習などですごく面倒をみてもらって、そういう部分でスキルが身についたことで、自信になった。今までもこれくらい試合に出たシーズンはありましたが、今年が一番『やれたな』と感じます」

躍進の大きな要因となったのは、フィジカル面の充実だ。

「3、4年前は77キロだったのが、今は84くらい。大きくなると、やっぱりプレーも違います。単純に当たり負けしなくなるだけで、自信が持てますから」

もとより身体能力の高さはピカイチだ。幼少時代から野球のピッチャーとして活躍し、岡山の関西高校では当初、春夏通算20回の甲子園出場を誇る名門野球部に所属。伸び伸びと力を発揮できる環境を求めて1年生の秋にラグビー部へ転じると、わずか3か月後の花園でリザーブ入りを果たす。その時こそ出番がなかったものの、2、3年時は主軸として聖地の芝を駆けまわった。

卒業後は地元の三菱自工水島でラグビーを続ける予定だったが、同じ三菱のつながりで水島の関係者から相模原のリクルーターに評判が伝わり、誘いの声がかかる。もともと就職希望だったこともあって、決断に時間はかからなかった。

「先生(白波瀬行親監督)からも、『いいところだから行ってこい』と言われて。ぜひお願いします、と」

18歳で社会人チームに飛び込むことへの不安はあったが、いざその場に身を置いてみると、思ったほど遠い世界ではないという手応えも感じられた。「がんばれば意外とやれるかもしれないな、と。その頃から、気持ちだけはあったので(笑)」。もちろんプレーの強度やスピード感は高校時代とは比べ物にならないほどハイレベルだったが、そうした環境でラグビーをできることが楽しかった。

3年目のシーズンから公式戦でも出場機会をつかむようになり、26歳となった現在はチームにおける立場も若手から中堅へと移りつつある。会社では大型エンジンを扱う部署に所属。仕事との両立に奮闘しながら、プレーヤーとしてもっとも脂の乗る年代を迎えようとしている。

高卒、社員選手という立場は意識しますか。そうたずねると、こんな答えが帰ってきた。

「雑草魂というか、プロの人には負けたくない、という気持ちはあります。特に今はプロ選手中心になってきているからこそ、社員選手はみんな『負けてられないぞ』という気持ちがあると思いますね」

様々な背景を持つ選手が混在する環境は、ともすればチーム内にグループが形成される危険性をはらむ。しかしダイナボアーズはそうならない。高卒、大卒、他の社会人チームからの移籍組、社員、プロ、それぞれがお互いを尊重し、刺激しあいながら、独特のカルチャーを作り上げている。なぜなのか。

「普段からみんなよくコミュニケーションをとっているし、ベテランの方々が積極的に若手を食事に誘ったり、親切に世話をしてくださるんです。そういうところから、いいチームが出来上がっているのかな、と。プレー面でも、いい意味でプレッシャーを与え合っていると思いますね」

これまで以上に入念に準備を重ねて臨んだ今シーズン。ダイナボアーズはトップチャレンジシリーズ、入替戦とあと一歩のところまで肉薄したものの、またしてもトップリーグ昇格はならなかった。終盤戦はメンバーから外れるという悔しい思いも味わった茅原は、わずかな差で勝利に届かなかった試合をこう振り返る。

「最後は単純なミスで負けたと思います。力の差はなかったと思うし、基本プレーが大事だということをあらためて痛感しました。やっぱり上のチームはこの部分で経験値が高い。来シーズンは、練習中からそうしたミスを絶対に許さないような厳しい雰囲気を作っていかなければ、と感じています」

一方で、トップリーグのチームが相手でも十分通用するという感触をつかめたのもまた確かだった。特にこれまでチームとしても個人としても課題だったフィジカル面で対等に渡り合えたことは、大きな前進であり収穫だった。

「強い相手とやっても当たり負けしなくなったし、大差で負けることがなくなった。一昨年の入替戦が豊田自動織機だったんですけど、その時は7-53でしたから。織機にいる高校の同級生も、『強くなったな。危なかった』と言っていました。今まではトライを取られるとズルズルいかれていたのが、今回は2トライ取られたところから巻き返せた。ここは地力がついた証拠だと思います」

その豊田自動織機戦では、アウェーゲームにも関わらず多くのダイナボアーズファンがスタンドに詰めかけ、まるでホームのような雰囲気でチームを後押ししてくれた。

「試合にでないのに、あの光景を見ただけで泣きそうになっちゃって…。チームにとってメチャクチャ力になったし、やらなければ、という気持ちにさせてもらえた。ファンあっての自分たちなんだ、と再認識しました」

何度悔しいシーズンが続いてもあきらめず、あらゆる面から献身的にチームを支えてくれる。そんな大切なファン、会社、スタッフのためにも、来季こそは必ずトップリーグ昇格を果たす。それが自分たちの使命であることは、強く認識している。

「職場でも、『がんばってくれよ』『今度こそ上がってくれよ』と、たくさんの言葉をかけていただきました。みなさんの期待は、ひしひしと感じています。来季はトップチャレンジリーグということで、相手も強いチームばかりになる。誰が出ても力が変わらないチームになれるよう、各々がもっと強くなって底上げしていかなければと思っています」

個人的には躍進の一年も、そこに満足することはない。さらなる高みへ。茅原権太はこれからも迷いなく走り続ける。

Published: 2017.03.14
(取材・文:直江光信)