#028 マイケル・リトル『今を生きる。』

新しく来た外国人、すごいですよ。2017年春、いろいろな人から、何度も同じ言葉を聞いた。全身バネ。フィジカルがケタ違い。中には「垂直跳びで3メートル以上あるウエートルームの天井に軽く届いた」なんて話もあった。

評判の男の名は、マイケル・リトル。ニュージーランド出身のCTB。まだ24歳。オールブラックス50キャップを誇る世界的名CTBウォルター・リトルを父に持ち、ニュージーランドのノースハーバーで2016年の国内選手権最優秀選手候補にノミネートされるなど活躍、今シーズンよりかつて父もプレーした日本へやってきた。

10月22日の日野自動車レッドドルフィンズ戦。どしゃ降りの秩父宮にその勇姿を見た。ぬかるむグラウンドをものともせず鋭いランを連発、相手タックラーを弾き飛ばし、突き抜け、再三ゲインを勝ち取った。悪路に苦しむ乗用車の中に一台だけ四輪駆動のオフロード車がいるような圧巻のパフォーマンスは、苦い敗戦にあって今後に期待を抱かせる貴重な希望の光だった。

繰り返すがまだ24歳。プレーヤーとしてピークを迎えるのはこれからだ。ニュージーランドでさらに上のレベルを目指すことだって十分できただろう。それなのになぜ、日本でプレーする道を選んだのか。その理由を本人はこう明かす。

「家族にとってはニュージーランドに残るほうがよかったでしょう。ただ、向こうではどうしてもチャンスが限られるし、日本でのプレーに可能性を感じました。(所属していた)ノースハーバーは国内選手権の2部から1部昇格を目指してがんばっていて、ミツビシが同じような状況にあるという点にも惹かれた。エージェントから話を聞いた時、すぐに『これだ!』と思ったのです」

父ウォルターが三洋電機(現パナソニック)に所属していた2年間、当時小学生だったマイケルも群馬県の太田に住んでおり、日本の文化や習慣に馴染みがあったことも、日本行きを決断する後押しとなった。「日本語はまだムズカシイですね」と本人は苦笑するが、陽気な性格も手伝って生活面で苦労することはまったくないと言う。日本のクラブで過ごすラグビーライフの印象を尋ねると、「以前住んでいた時から、いつか日本でプレーしたいと思っていました。最高の気分」と笑顔が広がった。

「ダイナボアーズはクラブ全体にファミリーのような雰囲気をすごく感じます。みんな仲が良く、いつも一緒にいる。個人的によく話をするのは、同じCTBでコンビを組むマンペイ(田畑万併)ですね」

技巧派だった父とは異なり、プレー面での最大の魅力は群を抜く身体能力を生かしたダイナミックなボールキャリーと激しいコンタクトだ。もっとも自身では、ラグビー選手としての身上を「細かい部分を怠ることなくやること。そして周囲の仲間が気持ちよく、いいプレーをできる手助けをすること」と語る。日本のラグビーの印象については、「ニュージーランドとはかなり違います」と感想を口にする。

「ニュージーランドのラグビーのレベルは、おそらく世界で一番だと思います。しかし日本のラグビーはそれよりもっと速く、優れたスキルがある。海外からきた選手にはそこに戸惑う人もいると思いますが、個人的にはやっていてすごく楽しいですね」

春、夏と試合を重ねるごとにダイナボアーズのラグビーにもフィットし、いまや攻守の要として欠かせぬ存在になりつつある。トップチャレンジリーグでは第5節まで4試合に先発し、すべてフル出場。ここまでの戦いを振り返り、チームのパフォーマンスをこう分析する。

「最初の2試合(○19−7釜石シーウェイブス、○19−5マツダブルーズーマーズ)はたくさんチャンスを作りながら、それをスコアに結びつけられず難しい試合にしてしまいました。おそらく相手を過小評価していた部分もあったと思います。我々は毎試合、自分たちのベストを尽くさなければならない。その部分が甘かった」

開幕から4連勝でセカンドステージAグループ進出を決めたダイナボアーズだが、ここまですっきりしない戦いが続いている。第5節の日野自動車戦では相手の気迫あふれるチャレンジに後手に回り、16-22で痛恨の黒星を喫した。もっとも、この先に待ち受けるセカンドステージの決戦を見すえれば、ここで自分たちの足りないものに気づくことができたのは不幸中の幸いと言えるだろう。「課題ははっきりしている」と話すリトルの表情にも、悲観の色はない。

「才能のある選手がそろっているし、ポテンシャルは間違いなく高い。チームは確実に前進しています。ただ、能力はあるのにそれを出せないことがある。それは、チームのストラクチャーを信じ切れていない時が多い。自分たちのやってきたことを信じて、果たすべき役割をまっとうすること、そしてどんな状況でも自分たちのスタンダードを高く維持していくことが大切です。トレーニングでハードワークして、その成果をゲームで発揮する。それに尽きると思います」

インパクト抜群のプレーに長いカーリーヘアをまとめた特徴的な外見も手伝って、すでにサポーターからも多くの支持を得ている。「全国民がラグビーファン」と言われるニュージーランドで生まれ育ったリトルにとっても、ダイナボアーズの熱狂的なサポーターの存在は大きな力になっているはずだ。

「遠く離れた場所でのゲームにもたくさんのファンが来てくれて、大きな声援を送ってくれる。とても感謝していますし、そういう方々が楽しめるようなラグビーをお見せしたいといつも思っています。我々には大きな目標がある。それを達成することが、ファンの喜びにもつながっていくと信じています」

日本代表に興味は? と聞けば、「もちろん。ただ、まずはダイナボアーズのためにベストのパフォーマンスを見せることが一番」と答えが返ってきた。「僕はいつも『今』にフォーカスしている。今を一生懸命やっていれば、起こることはその時に起こる」。

その時を笑顔で迎えるために。マイケル・リトルは今を全力で駆け抜ける。

Published: 2017.11.28
(取材・文:直江光信)