#022 中濱 寛造『フィニッシャーの矜持。』

大阪の真住中学でラグビーを始めて以来、ずっとスポットライトの当たる道を歩んできた。中学3年時に大阪府中学校選抜に選ばれ、全国ジュニア大会優勝。大阪工大高2年時、当時花園4連覇中だった啓光学園(現常翔啓光学園)を止めた準々決勝での閃光のような4トライは、今も多くの高校ラグビーファンの記憶に刻まれたままだ。進学した早稲田大でも初年度からレギュラーに定着し、大学選手権優勝の一員となる。高校、U20、日本A、7人制と、様々なカテゴリー代表も経験してきた。

過去6年間所属した神戸製鋼では、1年目からBKの切り札としてトップリーグで活躍した。その後、ケガで思うように力を発揮できないシーズンもあったが、まだ28歳、チームにとっては依然として大切な戦力だったはずだ。そんな男がなぜ、このタイミングで移籍を決意したのか。中濱寛造本人は、その理由をこう語る。

「まずはゲームタイムがほしかったというのが一番です。去年はトップリーグの出場が3試合。自分自身、それでは納得できなかったし、もっとできるという思いがありました。実力があれば出られたんじゃないかと言われればそれまでかもしれませんが、やるべきことをやっていた自信はあったので」

移籍の意思を最初に話したのは、同級生で早稲田時代のチームメイトでもある中村拓樹だった。そこから話が広がり、三菱重工相模原との縁がつながる。ここまでのキャリアを考えれば、トップリーグの他のクラブへ移る選択肢もふんだんにあっただろう。しかし中濱が移籍先に選んだのは、今季トップチャレンジリーグに参戦するダイナボアーズだった。

「他チームの話は一切聞いていません。三菱は今一番トップリーグに近いチームだし、中村や安江さん(祥光/神戸製鋼時代のチームメイト)の話で、いいチームだと思っていました。安江さんに『一緒にトップリーグに上げよう』と言われた時、自分もそこにチャレンジしたいという気持ちになった。迷いは、なかったですね」

神戸製鋼時代に夏合宿で対戦した時のダイナボアーズの印象を、「外国人選手が多いな、というのが正直な感想でした」と振り返る。実際に加入してみると若い選手も多く、チームとしての伸びしろの大きさを感じた。選手たちのひたむきにラグビーに取り組む姿勢と意識の高さにも、いい意味で驚かされた。。

一方で、中に入ったことであらためて見えたこともあった。

「FWはトップリーグ上位レベルのポテンシャルを持った選手が集まっています。その強いFWをBKがうまいことコントロールするという部分が、今の三菱には必要なところかなと。あとは、たまに練習の質がガクッと落ちる日がある。トップリーグのチームは、そこが落ちませんから」

一つひとつの局面ではトップリーグの上位とも互角に渡り合える力がありながら、試合を通して見るとどこかでぽっかりとスイッチが切れる時間があり、その間に立て続けに失点してしまう。この部分こそが、トップリーグチームとそれ以外のチームとを隔てる大きな差だ。この差を埋めるためには、クオリティの高いトレーニングを日々真摯に積み重ねていくほかない。

悲願のトップリーグ昇格を果たすために必要な要素としてもうひとつ中濱が挙げたのは、選手個々のゲーム理解と、細かい部分へのこだわりだ。

「なぜそのプレーを選択するのかということまで考えてできているか。ゲームプランを遂行することはもちろん大事ですが、ラグビーはそれ以外のことが起こるほうが多い。そうなった時、何も考えず感覚でやってしまうと、チーム全体がうまくいかなくなる。そういう選手が、まだチラホラいるな、と」

今季は春先にじっくりウエートトレーニングに取り組んだこともあって、コンディションは「メチャクチャ順調です」と笑う。その言葉通り、6月1日の加入発表から9日後のヤマハ発動機戦でさっそくダイナボアーズでのデビューを果たすと、フル出場してさすがという動きを見せた。以降、4試合連続で先発に名を連ね、夏合宿の初戦となった7月19日の神戸製鋼戦では古巣から後半26分に貴重なトライを挙げるなど、勝利の立役者にもなった。

「ヤマハ戦は正直体が全然動いてなかったし、まだまだ納得できない部分もたくさんあります。体が仕上がってくれば、もっとチームにフィットできると思う」

28歳という年齢は、ラグビープレーヤーにとってベストエイジとも言える。周囲を見渡せば、日本代表やサンウルブズで主軸を務める同世代の選手も多い。同じステージで戦ってきた者として、期するものはあるだろう。

「まだまだできると思っていますし、自分自身、何も満足していない。三菱をトップリーグに上げるという目標を達成する中で、自分も成長していきたい。日本代表もサンウルブズも、諦めたわけじゃないですから」

頂点を争う環境でしのぎを削ってきた経験は多々あれど、下部リーグで昇格を目指す戦いは、長いキャリアにおいて今季が初めてとなる。どのチームも生き残りをかけて臨んでくる中、ひとつも落とせない試合が毎週続く緊張感は、並大抵のものではないだろう。それでも中濱は、「だからこそ楽しみ」と言う。

「大事な試合ばかりなので緊張すると思います。でも、そういう緊張感があったほうが楽しめる。いろんな地方へ行って試合をするのはトップリーグと同じだし、そこでどう過ごすかはわかっているので。やりにくさはまったく感じません」

そんな過酷な闘争を勝ち抜き、今年こそダイナボアーズがトップリーグに上がるために必要なものは何なのか。最高峰の舞台でいくつもの激闘を戦ってきた男は、それを「規律」と表現した。

「この時間帯、この場面で、絶対おかしてはならないペナルティをするかしないか。そういうところで、試合展開が大きく変わってくる。そこが一番だと思います。あとは、強いチームはあわてない。どんな相手に対しても自分たちの用意してきたものをまっとうできるのが、本当の強いチームだと思います」

膠着状況が続いた時。ここで点がほしいという時。跳ねるような独特のステップでことごとくトライを取ってきたのが、中濱寛造だった。チャンスにからむ天性の嗅覚と無類の勝負強さは、昨季決定力不足に泣いたダイナボアーズにとって大きな大きな武器になる。

「まずはプレーで結果を残すこと。いろいろ伝えたいこともありますが、とにかく今はそこを意識してやっています」

結果を残す。すなわちトライを取る。それが、生粋のフィニッシャーの矜持である。

Published: 2017.08.10
(取材・文:直江光信)